『あなたのようになりたい』という憧れと現実の狭間
『あなたのようになりたい』
と言ったら、怒られた。
・・・いや、怒られたはデフォルメしすぎか。正確には、「拒絶された」が一番近いかもしれない。
彼女に憧れる人は山ほどいる。
それだけのことを成し遂げている人。それは揺るぎようのない事実。
けれど、『めぐさんのようになりたいんです』という発言に対しては、昔から一貫してこう断言する。
「あなたはあなたでしかない。だから、私になろうなんて思わなくていい」
初めて聞いたときは衝撃だった。だって私だって例に漏れず、彼女のようになりたいと心底思っているひとりだったから。
どうすればなれるのだろうか?どうすれば近づけるのだろうか?どうすれば・・・。
彼女のようになりたくて、ただひたすらに呪文のように唱えてた。
そんな思いを瞬殺されたような気分だった。
でも、 少し経ってから、『何だかよくわからないけど、それは違うってことなんだな』と、思いの外あっさりと納得したことを覚えてる。
それぐらい彼女の言葉には、説得力というか力強さというか、有無を言わせない魂が乗ってるんだと思う。
『今がツラいから、めぐさんのようになりたい』
そんな匂いを彼女はすぐに嗅ぎ分けてしまう。
そして決して、現実逃避を許さない。
誰かに頼ってもいい。迷惑かけてもいい。
弱音吐いても愚痴ってもいい。投げ出したっていい。
けれど。最後は自分の足で立てと、ちゃんと”ここ”に戻って来いと、逃れることを許さない。
・・・許してくれないんだよなぁ、ホントに。
だから私は。現実逃避グセが出ると無意識に、彼女の声が聴きたくなる。言葉に触れたくなる。
そんなことをずっとずっと、繰り返しているように思う。
「彼女のようになりたい」は、
突き詰めると、他人になろうとしているということ。
「他人になんてなろうとしないで。自分を見失わないで。自分らしさを大切にして」
他人になろうとする行為は、一歩間違えると他人の価値観でしか生きられなくなる。それはつまり、自分らしさの放棄。
彼女のメッセージの真意に気づくまでにだいぶ時間はかかったけれど、
いつ何時もブレることなく、「私にならなくていい」と言い続ける彼女をカッコいいと思った。
そんなことを言えるような大人になりたいと、心から思った。
彼女に抱いていた憧憬の念は、次第に尊敬の念に変わったんだと思う。
大学入学のため上京する頃には、
『いつか彼女に会ったとき、恥じない自分でありたい』
これが私の志になった。